介護施設であだきち君が書いてくる「日記」は、ときどき解読作業が必要です。
5月25日
ははめきをしましたこうりんくけむをしました
分かりません。(´・ω・`)
あだきち君の施設で働いている、あねぞうさんに解読を依頼。
「ははめきって、何だろ」
「ばば抜きじゃない? 昨日やってたよ」
「おー、ババ抜きね。参加できてたのかな」
「座ってたよ」
「ほうほう。じゃ、こうりんくけむは」
「ボーリングじゃないかな。あだきちも、ころがしてたよ」
「なるほど!」
あだきち君が濁点を書かないのは、小学校のころからです。
なんだか平安時代の書き言葉みたいです。
濁点を書かなくても分かるからいいんじゃないかと、思っているのかもしれません。
「ぬ」が「め」になっちゃっているのは、うっかりミスかも。
「ぼーりんぐげーむ」が「こうりんくけむ」になってしまうのは、「ぼ」と「こ」、の聞き分けと、長音の判別が難しいせいでしょう。
あだきち君が、なかなか言葉を覚えず、しゃべらなかったのは、一つには、この聞き取りの問題が大きく絡んでいたと思います。
健常な子どもたちは、文字を覚えるよりもずっと早く、日本語の音韻体系を習得できますが、あだきち君が物の名前を記憶して、それらを口にするようになったのは、ひらがなを読み書きできるようになった後でした。
いくら口頭で言葉の練習をしても、単語を覚えることのできなかったあだきち君は、名称添えた絵カードを見ながら、その単語を、数十回、数百回と書き写すことで、どんどん知っている言葉を増やしていくことができたのです。
いまでは、そういう練習はほとんどやらなくなりました。
それでもあだきち君は、新しい言葉を覚えるときには、文字で記憶している様子があります。
言葉を思い出そうとするとき、よく、指で空書をしています。手を動かして書くことで、記憶が蘇りやすくなるのでしょう。