自閉症の人は記憶力が過剰すぎる場合があるというのを、何かの本で読んだ記憶があります。
たいていの人が、自然に忘れるような、あまり重要な意味のない記憶が、PTSDの方のフラッシュバックのように、いつまでも鮮烈に残ってよみがえるために、日常生活で混乱することも、あるのだとか。
あだきち君に、そういう混乱があるかどうかは、よくわからないのですが、記憶力が抜群にいいことは、間違いありません。
あねぞうさん(現在二十歳)が、中学二年くらいのころに、YouTubeで繰り返し聞いていた曲がありました。
島谷ひとみ / 「パピヨン 〜papillon〜」
当時、この曲をBGMに使って、「武装錬金」という漫画に出てくる、パピヨンというキャラクターのMAD動画がYoyTubeで公開されていました。(その後削除されました)
この、やたらテンションの高いパピヨンというキャラが、当時、重い鬱の状態にあって、登校どころか外出もほとんで出来ないかったあねぞうさんを、どういうわけか、猛烈に元気にしてくれたのです。
すぐに原作漫画全巻購入して、あねぞうさんにプレゼントしました。
あねぞうさんは、島谷ひとみの「パピヨン」を聞きながら、漫画のパピヨンを丁寧に模写して過ごす日が続きました。
このパピヨン(蝶野攻爵という名前らしいです)という人は、免疫系の難病をもっていたという設定だったようで、物ごころつく前から難病患者だったあねぞうさんには、シンパシーを感じる部分があったのかもしれません。
その後、あねぞうさんは、武装錬金とパピヨン、中学校、そして引きこもる生活から卒業し、高校に毎日通うようになりました。
その後、家のなかに、島谷ひとみの曲が流れることもなくなったのですが…
ここのところ、あねぞうさんの鬱が重くて、風邪を引いたりしたこともあり、中学校時代のように、家に引きこもって寝込む時間の長い日が続いていました。
すると、あだきち君が、「パピヨン」の曲の、サビの部分を、繰り返しハミングしだしたのです。
短いフレーズではありますが、実に正確に。
少なくとも3年以上、あだきち君はこの曲を耳にしていないはずでした。
そして、曲を繰り返し聞いていた当時、あだきち君も、その他の家族も、この曲を一度も歌ったことがありませんでした。
最近の、あねぞうさんの不調を見て、あだきち君のなかの過去の記憶がよみがえったのだとしか思えません。
映画「レインマン」で、自閉症の兄であるレイモンドが、自分のせいで、幼い弟のチャーリーに怪我をさせてしまった記憶をまざまざと思い出して、パニックになる場面がありました。レイモンドは、数十年を経て再開したチャーリーを、当時と同じように守ろうとし、安全であることを確認すると、頭をなでます。
あだきち君が、あねぞうさんに元気を出してほしくて、パピヨンを歌ったのかどうかまでは、わかりません。
けれども、他の家族が忘れかけているような歩みの道のりを、そばでずっと見ていたあだきち君がすべて記憶していることは、間違いないと思っています。