2019年10月29日火曜日

雨の朝の忘れ物


朝、介護施設のバスにあだきち君を乗せるために家を出ると、雨でした。

家の窓から外を見たときには、降っていない様子だったので、傘を持たずにマンションのエレベーターを降りたのですが、エントランス前のじは、降り始めたばかりの雨に濡れていました。


あだきちくんに、「傘取りに、戻っていい?」と聞いてみたのですが、猛烈に不安そうな顔になったので、あきらめて、そのままバス停に向かいました。



バス停までの道のりは、徒歩三分ほど。

歩いている途中で、介護施設のバスが走ってきて、追い抜いていき、先にバス停について、私たちを待っていてくれました。


すぐにあだきち君を乗せることができたので、あまりぬれずに済みました。


あだきち君と二人の外出では、一度自宅を出てしまうと、忘れ物に気づいても、取りに戻ることが難しいです。戻ったあと、どうなるのか、予測がつかなくて不安になるのだろうと思います。たぶん、自閉症の人の多くが、似たような問題を持っているのではないかと思います。



まだ小さいころだったら、抱っこするか、手を引いて連れ戻すことができましたが、私よりもはるかに巨大になってしまった今では、力わざは使えません。


一度忘れ物を取りにもどっても、ちゃんと予定通りに出かけられるのだと、納得がいくように教えるためには、何度もそういう経験をすることが必要なのかもしれません。

でも、生活がよくも悪くも安定して、決まりきったパターンのなかで動くことに、あだきち君も家族も慣れてしまっているので、あえてそれを崩すというのは、なかなかに骨の折れることです。

あだきち君だけでなく、家族も、固定したパターンの生活に寄りかかっているのだなと、あらためて思います。



「忘れ物」という概念を、あだきち君に教えることも、おそらくとても難しいと思います。

あだきち君本人は、おそらくこれまで、忘れ物をした経験が、ほとんどありません。

外出時の持ち物、とくにカバン類のチェックにはとてもうるさいのです。


だけど一度だけ、学校の宿泊学習に行ったとき、ボストンバックとナップザックを全部忘れてきて、驚いたことがありました。


あのときは、生徒たちを乗せた観光バスが、トランクにあだきち君の荷物を積んだまま、営業所に帰ってしまったのでした。


あだきち君は、自分の荷物のないことをおそらく分かっていたでしょうけれども、それを周囲に伝える方法が分からなかったのだと思います。

荷物は、翌日になって、無事に学校に帰ってきました。あ
のときは、先生方にものすごく謝罪されて、かえって恐縮したものです。


日常的に、あだきち君の持ち物を忘れるのは、もっぱら、身の回りの支度をする私です。

あだきち君の学校時代も、プリント類の提出を忘れるのはしょっちゅうでしたし、介護施設通所の日々を送る今も、よく持ち物の準備をし忘れて、連絡帳で「◯◯が、ありませんでした」と書かれています。


子どものころから忘れ物大王だった私は、大人になってからADHDの診断を受けて、いまはコンサータを服用しています。それでいろいろ改善はしたものの、相変わらず、忘れ物と失くし物の多い暮らしを送っています。


そういう面で、おかーさんは頼りにならないということを、あだきち君はよく理解していて、一緒に出掛けるときには、私がちゃんとバッグや鍵を持っているかどうか、目視チェックしてくれることもあります。



ふと思いつきました。

雨が降りそうなときには、あだきち君が、自分から傘を持って出るようにすることを、練習してみることにします。


今日は雨がふりそうだね。
傘を持ってでかけようか。


そんなふうに、声をかける習慣をつけてみることにします。


そのほうが、傘を忘れて家に戻る練習をするよりも、見通しが明るそうです。