あねぞうさんのおちゃらけ仲間のM君が、A君の話をおしえてくれた。
A君は、おゆうぎをしない。うたをうたわない。ゲームや遊びに、加わらない。なにもしない。
運動会でも、すべての競技で見学に回ってるのを、私は見ていた。
「A君はね、いつも、こうなっちゃうんだ」
と、とてもやさしい顔をしながら、M君はいった。
クリスマスのお芝居がはじまると、A君は帽子のゴムを噛みはじめた。噛みながら、舞台のはじっこで、なんとなくみんなの様子をながめていた。
家にかえってから、あねぞうさんに、A君のことを聞いてみた。
「よくわかんない。でも、言葉はわかるみたいだよ。あだきち君とは、ちょっとちがうかも」
とのことだった。A君とも、うんとなかよくしてねと、あねぞうさんに言ったら、あねぞうさんはうなずいたけど、なんとなく曖昧な顔をしていた。そして、
「あのね、じつはね、言葉しゃべれないような気がするおともだちが、もう一人いるんだ」
といった。誰なの、と聞くと、あねぞうさんはちょっと間をおいてから、
「Cちゃん」
と答えた。Cちゃんは、幼稚園のクラスのなかで、たった一人だけあねぞうさん親しくなれた女の子のともだちなのだと、前からあねぞうさんに聞いていた。じゃあCちゃんとお話したことないの、と聞くと、あねぞうさんは、
「話すみたいなんだけど、よくわかんないのよ」
という。会話になっていないらしい。
「でも、折り紙とかいっぱいして、あそぶんだよ」
たしかに折り紙に、言葉はいらない。
A君は、自分からはなんにもしないから、あねぞうさんとしても、接点をみつけるのがむずかしいのだろう。
クリスマス会のあいだに、私は、A君の好きなものをいくつか見つけた。
お人形と、お話だ。
あねぞうさんにも、教えてやろう。
(※13年後の補注……A君は、見上げるほど背の高い、立派な青年になりました。元気に働いているそうです)