2005年10月13日木曜日

【過去日記再録】GABAサプリ……あだきち君七歳



 あだきち君にGABAのサプリメントを飲ませるようになって、五日になる。

 飲ませて以来、あだきち君を縛り付けていた常同行動や、強迫神経症的な行動は、大半が消失し、復活の気配もない。

 いったいあだきち君の脳内で何が起こっているのか。
 ネットで読みかじった半端な知識をもとに、自分なりに整理してみる。




 GABAは、抑制性の神経細胞で働く、神経伝達物質である。

 脳内には、抑制性の神経細胞がたくさん存在していて、記憶や知能の発達、てんかん発作の抑制などに深く関わっているという。とくに、強迫神経症や常同行動を引き起こす部位であるという、大脳基底核には、GABAがたくさん含まれているらしい。

 自閉症のひとの遺伝子を調べると、GABAの受容体を作るための遺伝子に異常が見られる場合が多いという話もあった。

 また、フェニルケトン尿症で、自閉症状を呈する人の脳内には、セロトニンとGABAが少ないという調査結果もあるという。

 セロトニンは、大脳基底核にあって、やはり抑制的な働きをしているため、強迫神経症などでは、セロトニンの機能をたかめる抗鬱剤(SSRI)が有効な治療薬となるという。

 セロトニンについては、まさか抗鬱剤を飲ませるわけにもいかないから、ひとまず置くとして、とりあえずGABAの補填を試してみようと思い、GABAサプリを取り寄せたのである。

 その結果、びっくりするような効果があったことは、上に書いた。

 その後、いろいろと調べてみると、GABAの働く抑制性の神経細胞が、言語習得の臨界期に深く関わっていることが分かった。なんでも、抑制性の神経細胞が機能しないノックアウトマウスを作ったところ、脳内に臨界期が起こらなかったというのである。マウスは言語能力を持たないから、臨界期は言語習得のものではなくて、視覚刺激の処理に関するものである。しかし言語の臨界期も、同じように抑制性の神経細胞の働きによって成立しているのだとすれば、それが足りなければ言語の臨界期は起こらないことになってしまう。

 もうすぐ八歳になるあだきち君は、いまだに自発語を発しない。文字の読み書きはできるし、エコラリアもある。簡単な単語は理解する。足し算も簡単なものならできる。知能がないわけではない。なのに、「全くしゃべらない」のである。

 私は、あだきち君は、まだ言語習得の臨界期を迎えていないのではないかと思った。

 いくら、単語の音声情報を多量に記憶しても、それと意味とをマッチングすることができても、コミュニケーションの場で「運用する」ということができなければ、何にもならない。言語習得の臨界期は、その運用に必要な脳内の複雑きわまりない神経回路を一気に作り上げる、奇跡の時期なのである。どんな子供にも授けられるはずの、その奇跡が、あだきち君にはまだ来ていない。

 GABAがやたらと「効いた」ことで確認できたと考えていいと思うのだが、あだきち君の多動や強迫神経症的な行動は、抑制性の神経細胞の働きの弱さを表しているのだと思う。

 それらの神経細胞のサボタージュが、言語習得の臨界期を遅らせていることの原因だとすれば、GABAやセロトニンの補充によって抑制系を叩き起こせば、遅まきながらも臨界期が起こるのではないか。

 セロトニンも補強できればなおいいのだが、まさかあだきち君に抗鬱剤を飲ませるわけにはいかないので、食品などからうまく摂取できるように、いろいろ考えてみようと思う。