2000年1月1日土曜日

 タニス・リー「銀色の恋人」



昔、ブログやホームページで読書日記をつけていたのだけど、手元に残したログに、日付を全く記録していなかった。

整理して、ここのブログに再掲載しようと思うのだけれど、いつ読んで、いつ書いたのか、もはや正確には分からない。どれもだいたい今世紀始まったころか、その少し前あたりからものであるのは間違いない。

というわけで、2000年1月1日から、順番にブログを埋めていくことにする。
(杜撰の極み)


これを再掲載しているのは、2016年の2月11日である。


んでは、過去の読書日記、開始。


 タニス・リー「銀色の恋人」ハヤカワ文庫 


 タニス・リーの物語はどれも、追い詰められたような生々しい愛憎のからみあいと、酷薄な運命とがぎゅーっとつまっていて、とても重い。それに熱い。一見ドライそうな登場人物も、お話が進むうちに、作者が流し込む濃密な情念のエキスに侵食されていって、いつのまにか溶岩がほとばしるような役どころをあてがわれてしまったりする。

 「銀色の恋人」で主人公のジェーンが愛するのは、金属製のロボットである。設計上は、もちろん感情なんかないことになっている。それがジェーンの恋心に「機械的」に応えるばかりでなく、いつしかそれを越えるほどの深い愛情でつつみこむ。

 二人の死別の場面はどうしようもなく切なく描かれているが、ほんに泣かされるのはその後、ラストの部分である。ロボットの恋人は、破壊されたあとは(種を越えた恋愛の成就の難しい近未来だった)、なんと、あの世に転生して、ジェーンの行く末を見守っている。つまり転生可能な魂を持ってしまうのだ。

 恋人を失うという取り返しのつかない痛手を負ったジェーンは、そのことをきっかけにして、コンピュータのプログラムのように機械的に娘を支配しようとする、実の母親からの精神的自立を果たす。恋愛をするということは、自分の人生を生きるために、生まれた家を出ることでもあったのだなと、思い出させられる。